恒例
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Part.5通信
名城大学2年 中島 孝
& その保護者 杉原 秀圭
編集部から

 毎度、『中島君の日記』をお読みいただいて有難く思っております。さて、冒頭から失礼とは思いますが、皆様Part.3でご承知の通り、中島君は無惨にも大学受験に失敗してしまいました。その後、宅浪を条件に親からベータとVHSの2台のビデオデッキを買ってもらって、アニメ三昧の浪人生活を楽しんでいるという報告を最後に、彼は絵夢絶党との通信を断っていました。「おそらく真剣に受験勉強にとりかかるため、またコンピュータを地面にでも埋めたのだろう。(「中島神話」参照)」と考えた私たち絵夢絶党員一同は、彼をしばらくそっとしておくことにしました。

 年が明け、春が来ても、彼からの連絡はいっこうにありません。彼との連絡にあたっていた私も東京に出て、『零壱症候群第2号』作成の時点で、中島君は完全に行方不明の状態となりました。「どうしたんだろう。まさか2浪したのでは?いや、十分過ぎるほど考えられる………。」我々の不安はつのりました。そうこうしているうちに冬になり年末も差し迫った頃、「いくらなんでも年末くらいは自宅にいるだろう」と、中島君連絡係の私は党員一同の見守る中、彼の実家へ電話をかけたのです。『中島君の日記Part.5通信』はここから始まります。

 

安堵

「そうか、そいつはよかったなぁ!」我々は胸を撫で下ろした。中島君はしっかりと大学へ行っていた。なぜか名古屋の名城大学だそうである。まったく残念なことに学部と学科を尋ねるのを忘れてしまったので、文系なのか理系なのかもはっきりわからないが。

 「もしもし、杉原ですが……。」
 「……えっ、あ、あっ、……すっ、杉さんけ?」
 「そう!!他に誰がいる!」
 「あっ、ああぁ……ど、どっ、どぅむぉー」
 「『どぅむぉー』じゃないだろっ。音沙汰なしで。今何やっとんがや?」
 「えっ、あっ、大学行っとる。」

1年以上経っていても中島君は中島君であった。

 

依然

 「中島君、今の大学に女の子おるが?」

 中島君がめでたく大学に合格したのはよいとして、我々の胸中に新たな不安が沸き起こった。未だかつて4人の女性としか口をきいたことがないという彼が(「中島神話」参照)、大学という小社会の一員として、まともな学園生活を送ることが果してできるのかどうかが懸念されたのである。彼の答えはこうであった。

 「あっ、うん、女の子も結構おるよ。クラスにもおる。」

『やばいっ!中島君の正体がバレてしまうっ!そうすれば富山県民のイメージが地に落ちてしまうじゃないか。富山県民は名古屋へ行けなくなってしまう。万事休す!』瞬間そう思った。

 だが、中島君ももうじき二十歳である。『親元を離れ、独り暮しを始めて半年も経っているんだ。あんまりこんな心配ばかりしてたんじゃ彼が可愛そうというものだ。もっと信頼してあげよう。』そう思って、勇気を振り絞って彼に尋ねた。

 「大学生活は楽しいけ?」
 「ん……うん、おもしい。」

『はぁ、よかった。どうやら少なくとも仲間たちには見捨てられてはいないようだ。見切られたのかも知れないが………。ま、とりあえずはうまくやっているようだ。………し、しかし、問題は次の質問だ。この質問の回答如何で彼の成長の有無が明らかになる。』

 「と、ところで中島君。大学の女の子と何か話した?」
 「ん?……(彼のこの間(マ)が息苦しい)……あぁ、話しとる、話しとる。」
 「やったぁー!!! やった、やった、よくやった。やればできるじゃないか!党長の家での4回目の経験が功を奏したか?」
 「えへへ、でへへ………いやぁ、だってサークルに入ったからサークルの先輩の女の子とぉー………。」
 「いやぁー、なんにしてもよくやった。それ聞いておじさんたち、肩の荷が下りたような心境だわ。」

 さすがに人間、独り立ちすると違うものである。あの中島君が女の子と『話しとる』のである。が、今にして思えばこれでこの質問はやめておくべきだったのかもしれない。

 「じゃあ、もう毎日のようにお話してるんだ。女の子と。」
 「えっ………あっ、な、なぁーん。毎日じゃない。」
 「え?」
 「………んーとね、サークル活動毎日じゃなくて、しゅっ、週に一回だから……」
 「…………」
 「んでも、2回……いや3回くらい話したわ。」
 「んぬぅわぁにぃぃぃ? 半年間で3回だけぇぇぇー?!」
 「んなん、秋にサークルやめたから正確には4ヶ月だわ。」
 「そっ、それでサークルやめてからは?」
 「…………一回もない…………」

 中島神話の壁は厚い。

 

近況

 このように中島君は現在、彼なりに青春をエンジョイしている。あと3年間、何事もないように祈るだけである。しかし…………

 

 「中島君、いつ帰って来たが?」
 「え、22日。」
 「それで、いつまで富山におるが?」
 「え、えっ、が、元旦に帰る。」
 「なにぃー、なんでまた? バイトでもしとるんか?」
 「え、なーん。汽車混むから……。」
 「…………あっ、そっ。」

このへんの思考回路は彼独特である。

 「そっでねぇ、今、僕、風邪ひいとるが。だで、元旦までに直さんとあかんが。」
 「それで?」
 「えっ、………えっ、なん、そっだけ………」
 「……………………」
 「………どっ、どうしたが?」
 「いや、ちょっと……」

気力を快復するには結構時間がかかるものである。

 「ところで、原稿はどうした?」
 「えっ? げ、原稿?」
 「何を言っているんだ! 君は党員なんだぞ! 党員の義務を言ってみろ!」
 「あっ、えっ、な、なに書きゃいいが?」
 「以前に書いたような随筆風の原稿なら何でもいい! 君の原稿を楽しみにしている人が大勢いるんだからな。」
 「そっ、そいがけ?!(本当?の意)」
 「〆切は3月末日。わかったな!」

このあと延々と中島君のゴネが続くが、書くに耐えないのでカット。はっきり言って彼は執筆の意志が無いとみられる。まことに残念だが、彼の

 「ほしたら、春休みに連絡するちゃ。憶えっとたら……。」

という言葉はとても信用できそうにない。だいたい現在の中島君は、実家にMZ-80K2があるだけということなので、マイコンとは遥か遠ざかった状況にあるらしい。かといってオフセット版の目玉である「中島君の日記」を落とすわけにもいかない。そこでこの原稿である。この原稿が読者諸氏の目に触れるということは中島君が原稿を落としたということになる。非はすべて中島君にあるので、ご了承下さい。