私の出張先のマシン室はもろに西日が当たります。この出張先の会社はフロッピーの管理が大胆なことで有名なのですが、この場合も例外ではありません。

　ここでは使用していないフロッピーをエンベロープに入れて保管するという風習がありません。だいたい適当にそこいらへんに裸でおっぽりだしてあることが常です。そんな所で私の目にとまる一枚の8インチフロッピーがありました。これは数日前からオフコンのCRTの上にほおってあるもので、毎日過激な西日に晒されておりました。その姿が可哀想であった私はとある日にそれを手に取ってみたのです。驚きました。それはCRTからの熱と太陽からの熱とで容赦なく火照っておりました。彼（フロッピー）はこのような状態をずっと強いられてきたのでした。『こりゃもう駄目だな・・・・』誰しもがこう思ったことでしょう。

　さらに数日が過ぎました。

　「お～い！ これじゃないの？」

第一開発課のS谷さんが彼を手に取って叫びました。S谷さんは白くほこりのついた彼の磁性面をフッと軽く吹き払うと、おもむろに彼をドライブに挿し入み、リセットスイッチをはじきました。彼は新型OAシステムのシステムディスクだったのです。数十秒後、CRTには美しいタイトル画面が現れました。彼は見たこともない永久ラベルを自慢気に着けておりました。

　先輩の話です。彼はキャリア4年のプログラマーです。ある日先輩は納品用のフロッピーにラベルを貼っていました。酒豪であると同時にヘビースモーカーでもある先輩は、その日ももんもんと煙草をふかしながら仕事に励んでおりました。ふっと考え事に気を取られていた先輩は指先の煙草の事を忘れてしまったのです。・・・・・ポトリ・・・・・煙草の灰が落ちる音に正気に戻った先輩は状態の把握に多少時間がかかったそうです。ついさっきまで真っ赤に燃えていた灰は5inch 2HDのむき出しになった磁性面のもろに真上にありました。・・・・・・・フロッピーはそのまま納品されましたが、いまだに発注先からは何も言ってこないということです。

　蒸し暑い季節。じっとしていても掌が汗ばんでしまいます。この状態で無造作にフロッピーに手をやると…………哀れ磁性面にはしっかりと指紋の跡が。普通は「これじゃ没だな」と考えるわけですが、実際のところはどうなのでしょうか。

　これも例の先輩の話によると、指紋をつけたという話はよくあってもそれが原因でフロッピーをお釈迦にした話は聞いたことがないそうです。だいたいつけた瞬間はくっきりと指紋が残っていても、一日もすれば表面に拡散してほとんど跡は残らないのです。当然エラーも出ません。ドライブの方も定期的にクリーニングするのが常識ですから問題はまずありません。他にもよだれをつけた話や鼻くそをつけた話、ひどいものになると梅雨でジャケットにかびを生やした話まであるそうですが、どれ一つとして媒体エラーになったものはないそうです。

　党員ならば知っている「どさんこマイコン野郎」ことＯ君のダンプ直撃事件。

　金曜日の党集会に出席するためスクーターを飛ばすＯ君。肩からバッグを下げ、気分良く夜の県道を突き進んで行きます。と、ちょっとしたはずみでバッグが肩から落下…………アスファルトに落ちたところをすかさず大型タンプの後輪が…………。哀れバッグはぺっちゃんこ。見えるのはダンプの後ろ姿だけ。

　マイコンビルの自動ドアが開き、真っ青な顔をしてＯ君が入ってくる。

　「ダンプにフロッピーひかれた・・・・・・」

唖然とする党員の面々。ひかれたバッグの中には現在作成中の新作ソフトのアセンブラソースが入っていたと訴える彼。すぐにX1を起動して被害にあったフロッピーのディレクトリをとってみる。

　「ピー！」 「I/Oエラー」

　「ああぁぁぁ・・・・・・」

精気の抜けた声をあげるＯ君。

　絶望でぐったりしている彼をよそにひかれたフロッピーを手に取ってみると、なるほどすさまじい圧力でぺっちゃんこになっています。このため磁性体の円盤がうまく回転しないのです。しかし、一見したところ磁性体に被害は見られません。問題のフロッピーを分解し、正常なフロッピーのジャケットと交換してみました。

　「CP/M-80 Ver.2.2………」

　「おおぉぉぉ……」

精気の戻った声をあげるＯ君。今日もＯ君は元気いっぱい青春しています。