MIDIを使った
コンピュータ ミュージック
元・秋葉原十字屋JX店長   吉本 和宏

 最近、巷で大流行の兆しが見え始めたパソコンを利用したコンピュータミュージックですが、これはひとえに電子楽器における規格の統一、すなわちMIDI規格の普及によるところが大きいことは皆さんすでに充分ご承知のことだと思います。

 しかしここで忘れてはならないのがそれを支えてきた優秀なソフトウェアの存在です。低価格の8ビットパソコンでも充分プロの使用に耐え得るこのシーケンスソフトの発達が、今のコンピュータミュージックのパワーの源となっていると私は考えます。現在のコンピュータミュージック云々をぬかす前に、このソフトウェアの現在に至るまでを現役の楽器屋の店長である私が知っている範囲内で簡単に解説していきたいと思います。はじめにお断りしておきますが、いろんな事情により本来ならちゃんと掲載すべきソフトウェアの実際の画面を紹介することができませんでした。まあ、こんなソフトもあったんだなーといった感じで楽しんでください。

アナログシンセサイザの時代

 初期のコンピュータミュージックでは、まだCV/GATE規格のシンセサイザをコントロールしていました。先駆け、というより現在に至るまでリードしているメーカーはローランドなのですが、このとき発売されたシステムはCMUシステムと呼ばれています。

 これはCMU-800という今で言うところのMKS-7のような専用のシンセサイザユニットをコントロールするものでした。なかなか完成度も高く、周辺機器も揃っており魅力的でしたが、いかんせん、パソコン本体も今ほど普及しておらず、そればかりかシーケンサによる自動演奏システムすら確立されていない時期でしたので、あまり受け入れられなかったようです(絵夢絶党内では別でしたが:編)。しかしそのとき作られたソフトウェアは、現在主流のカモンミュージックのもののいわば原型で、打ち込み方やリズムトラックの考え方まですでにほとんど完成されていたといえます。(APPLE][,MZ-80,X1,PC-80/88用がありました。)

MIDI規格の登場

妖艶なおねいさまその壱 国産で初めてMIDIを登載したのは、かのDX7です。これとほぼ時を同じくしてCX5というMSXコンピュータが“ミュージックコンピュータ”という銘打って発売されました。このシステムは、手ごろな価格、楽譜入力というなじみやすさ、加えてヤマハならではの宣伝力などによってかなり普及しました。しかしMIDIが広まるにつれてMSXの処理能力が音楽についてこれなくなり、現在の衰退に至っているといえます。

 このシステムでメインとなったシーケンスソフトはYRM15ミュージックコンポーザで、後にディスク対応のYRM55も発売されています。いわゆる楽譜入力タイプで、このほかにYRM31という、いわゆるリアルタイムレコーダーもありました。確かに一時代を築いたシステムではありました。

 このシステム、今よく考えてみるとMIDIシステムといいながらあまりにもコンピュータ自体で完結していました。鳴らす音源がスロット装着の専用音源、驚くべきことにその音源は外部からMIDIでコントロールできなかったというとんでもないシロモノでした。しかしその後このシステムが、名音源FB01を誕生させたことは重要です。

 さてCMUシステムはMIDI規格が登場するとその名もMPUシステムと名前を換え、いよいよその本領を発揮するようになります。

 まず、MPU-401という超名器が早々に発売されます。そのインタフェースとして当然のようにPC88用MIF-PC8が発売され、その後、今は亡きFM-7,X1、なぜかAPPLE,IBM-PC用のインタフェースまで発売されていました。

 肝心のソフトウェアの方はといいますと、CMUシステムを引き継いだ形でMCPシリーズ各種が発表されました。このソフトで現在のいわゆる数値入力型シーケンスが確立されたといえるでしょう。そしてこれから数々の派生型が生まれるわけですが、詳しくは次章で説明したいと思います。

 しばらくして、ローランドから3チャンネル分のシンセサイザ+PCMリズム音源がひとつのユニットに凝縮されたMKS-7というユニット型シンセサイザーが発売されます。それと平行して前述のMCPシリーズのPC88用ソフトMCP-PC8に、このMKS-7のトーンエディタを登載したMCE-PC8が登場しました。もともとMKS-7はシンセサイザとはいっても、音色はエディットもメモリも不可能ですので、まさに「コンピュータミュージックのための」というより「ためだけの」音源であるといえます。このユニット、安くはありませんが実に安直に、それでいてかなり凝った音楽も作成できます。そしてなんと言っても国産では初めてコンピュータで視覚的に音作りができるという画期的な音源だったのです。コンピュータミュージックの普及に大きく貢献しました。

 で、不思議なことにMCE,RCEは8ビットコンピュータ版でしか発売されずじまいだったのです。つまり98用のMCE,RCEをずっと待っていたのに、MIF-PC98インタフェース、さらにはMPU-401+MIF-PC98一体型のMPU-PC98が発売されたにもかかわらず、結局ローランドからは発売されませんでした。今もってこれは謎のままなのです(後述)。

 数値入力型は発売されなくとも、まったく違った形のソフトが発表されています。通称“レクリエ”と呼ばれるトラックのリアルタイムレコーダ、そしてリアルタイムで入力されたMIDI信号を楽譜化して記録する“シャッフル”です。“レクリエ”は「RECれ」から、“シャッフル”は「写譜る」をもじってつけられたという嘘のような本当の話もあります。当然、ローランドにこのようなユーモアのわかる体制があるわけはなく、この2つのソフトはシンセシストとして知られている神谷重徳さん率いるカミヤスタジオの手によるもので、ローランドはそれを取り次ぎ販売しているに過ぎません。

 このうち特に“シャッフル”は、自分の演奏が自動的に楽譜になるってなことで注目されましたが、たいして綺麗な楽譜が出るわけでもなく、それよりコンピュータミュージックにとって人間にしか意味を持たない既存の楽譜は必要ないという考え方も生まれ、はっきり言ってあまり売れませんでした。でも私がすごいと思ったのは、ドラム譜が作れるという点です。さすがにマニアックパワーにあふれていました。この“シャッフル”は結局中途半端に、盛り上がりを見せないまま現在に至っています。

 一方の“レクリエ”の方は先述の通り、基本的に8トラックのリアルタイムレコーダです。リアルタイムレコーダのみのソフトとうのは、ヤマハのMSXを除けば後にも先にもこやつのみです。何を隠そう私が88を買って初めて手にしたMIDIソフトはこれだったのです。(申し遅れましたが、“レクリエ”のみは88版も発売されました。)しかし演奏のあまりうまくないことを悟った私はきっぱりとこれをあきらめ、以後ますます打ち込みに燃えるのでした。

 この時期、確かリットーミュージックからも“ミュージックコンポーザー”とかいう名前でシーケンスソフトが発売されましたが、これはどちらかというとコンピュータ内蔵の音源を鳴らすという意味が強いのであえてここでは取り上げません。

ちりっとコラム しかし実際、演奏のできない私なんかが初めてコンピュータを使い、どかーんと一発自動演奏をきめたときは感動しました。はじめて見たのは、通っていたとある専門学校での話ですが、まだそのときはMIDIのなんたるかもほとんど知らず、とーても不思議がってたものです。
 それまで使ってたシーケンサというのが、最大128音メモリというとんでもないアナログシーケンサでして、全パートの自動演奏なんてとても考えつきませんでした。んでもってこれはやらねばならないと決心した私は、まずMIDIとCV/GATEのインタフェースを入手し、かくいうMKS-7にはじまり、気がついてみればとんでもない量の楽器に部屋が占領されていたのです。いくらコンピュータで一発自動演奏ができるからっていっても金は有限です。
5インチフロッピーでキメる!

いきなりあらわれたCP★YOU

 打ち込みに明け暮れていたある日、雑誌に奇妙な広告を見つけました。それはそのとき私が使用していたMCE-PC8の画面にそっくりでしたが、なぜかカラーで、よく見ると“CP★YOU98新発売”てなことが書いてあります。「こりゃ、あの幻のソフトMCP-PC98じゃないか!」と不思議がってたその翌日、例の学校に行ってみますと、なんとすでに問題のそれが走っていたのです。見れば見るほどそれはローランドのMCE-PC8にそっくりで、ご丁寧にもMKS-7のトーンエディタまで登載していました。つまり、どう考えてもそのCP★YOU98とMCE-PC8のプログラマは同一だったということです。なぜローランドのプログラマが別のソフトハウスから似たようなソフトを発表したのか。言い替えれば、なぜこのプログラマはローランドに見切りをつけて別会社へ移ったのか、これは今もって不明です。ただ最近になってわかったことですが、どういう理由にしろ、このプログラマ(実は小松さんといいます)は有志を募って自らローランドから独立し、その今の姿が何を隠そう『カモンミュージック』であったのです。

 カモンミュージック発足後の盛況ぶりは今更説明する必要もないと思いますが、例によってコピーの横行には手を焼いているとのこと。またプレリュードなどの新手のソフトの登場もあり、そろそろ画期的な新製品の発表を願いたいところです。

私は嫌いだこのタイププレリュード

 さて、ほとんどの方ご存知と思いますプレリュード(ホンダの車ではないですよ、当然)です。まるでマッキントッシュを思わせる画面を持った、いわゆる楽譜入力タイプのシーケンスソフトです。現在バージョンFまであがっていますが、発売当初は猛烈なバグで大顰蹙をかったものでした。

 この楽譜入力というやつ。一見マウスも使えて便利なように見えるのですがどっこい、現在の楽譜の表記法、つまり五線紙では演奏情報は十分に表わせないのです。たとえば日頃私が使っているカモンミュージックのソフトでは、一音ごとにいわゆるステップタイム、ゲートタイム、ヴェロシティーといったものが数値で設定可能です。これを五線紙上でやろうとしてもまず不可能でしょう。むりやりやるとヤマハのようになってしまい、もはや楽譜と呼べないシロモノになります。そこでプレリュードでは楽譜入力と一般に言われる数値入力を併用する形を採っています。すなわち二度手間になり、加えて実行速度の遅さも手伝って「遅い!!」という音楽ソフトにとって致命的な欠点を持つことになってしまったのです。

 この他の機能として楽譜作成があげられますすなわち楽譜のワープロなどと言われている機能ですが、早い話がグラフィックエディタです。かなり綺麗な楽譜が作成できますが、まだまだ写譜屋さんに言わせると不十分なようです。

 なんだか文句ばかりになってしまいましたが、最後にもうひとつ言わせてもらうと、「高い!」の一言になるでしょう。いくら凝りに凝りまくっているとはいえ、11万円は高い!

カミヤスタジオの活躍

 先述のローランドと結託しているカミヤスタジオのソフトも結構進化しました。レクリエの発展版のレクリエプラスがそうです。基本的には従来のレクリエに数値入力、エディット機能、MKS-7のボイスエディタを、文字通りプラスしたものです。あまり普及はしていませんが、さすがマニアの産物といった感じで、あのフェアライトCMIの一画面を思い浮かばせるものがあります。

 その他、これはカミヤスタジオ製ではありませんが、“タクト”というちょうどカモンミュージックのRCP-PC88のようなレコーディングと数値入力、エディット両用のソフトも発売されています。ま、これはカモンに対するローランドの意地みたいなもんでしょう。

あまり日の目を見なかったソフトたち

 以上のソフトはMSXを除きすべてローランドのMIDIプロセシングユニットだけに依存しているものですが、この他にもNECや富士通といったコンピュータのハード本体のメーカーからもそれぞれMIDIインタフェースが発売されており、これらに対応したソフトも若干発売されています。どれもいまいちパッとしなかったのですが、その多くがコンピュータに内蔵のFM音源なりPSG音源に対応しており、むしろMIDIの方がオマケに近い感がありました。よって我々のようにコンピュータ以外に楽器を死ぬほど揃えてシステム化しようなどと考えていないホビーユーザーには、かえって使いやすかったのではないでしょうか。有名なところでは、リットーミュージックのミュージライター1,2,3などがありますが、あまり詳しくわかりません。あしからず。

哀愁漂うおねいさま

おしまいに

 ざっと私の知っている範囲で紹介してみましたが、もちろんこれらは国内用のものだけでして当然海外にはもっとたくさんのソフトがあふれているのです。たとえばアップル社のマッキントッシュなどはこの手の先駆けでしょうし、最近になってそのコストや機能で注目されているアタリ社の1024やコモドール社のアミーガなんてのもあります。まだ私も詳しく理解しているわけではないので批評は避けますが、なかなか面白い傾向ではないかと思っています。とにかくソフトの価値というものが海外ではかなり確立されているので、興味深いソフトがいやになるくらい多く出回っているのが魅力です。

 もっともコンピュータ本体での利用価値がどうしても国産の物に勝てないので、そのへんの割り切った考え方がユーザーに求められるところでしょう。海外ソフトの詳細については今後私の店でも力を入れていくつもりなので、機会がありましたらまた紹介したいと思います。